第4回受賞作品
該当作なし
去る2017年4月6日、第4回「暮らしの小説大賞」最終選考会が行われました。飯島奈美さんが、海外ご出張中にもかかわらず、とても丁寧な選評を送って下さいました。
それを踏まえ、幅允孝さん、石田千さんとともに慎重に選考をした結果、今回は残念ながら「該当作なし」という結果となりました。
今年度の応募総数は、118作品でした。応募作の傾向として、血の繋がりにとらわれない家族のありようを描いた作品、既成概念にとらわれないパートナーとの絆を描いた作品が多く見受けられました。まさに「多様性のある社会」の時勢を映し出す様相。
一つ屋根の下で起きる日々の事象を語ることを突き詰めた作品。暮らしの延長線上に起こる非日常的な要素を巧みに織り交ぜ、医療、法廷、ミステリージャンルに近いものに発展させた意欲作。「暮らし」の捉え方も、書き手により多種多様でした。
最後まで残った3作品についての講評は以下の通りです。
『文志のおしえ』坂本和也
小説などまったく興味がなかった楓が、大好きな小梅に気に入られたいがために、あとさき考えずに隣家の作家に弟子入りしてしまう…。物書きを生業とする謎の男、文志を取り巻く面々による成長物語でした。
次々と現れる登場人物は、容姿、話し方、何をとっても特徴的。一見唐突と思える話の展開のさせ方も巧妙で、飽きずに最後まで楽しめると評価が高かったです。
ただ、エンタメ小説とはいえ、セリフだけで場面を展開させる傾向が強く、情景描写などセリフ以外の書き込み方が浅い傾向が……。物書きのはずの文志の作品が作中に登場しないなど、背景に奥行きを作ることができなかったのが残念でした。
『オリオフリネラ』村崎えん
小さな頃から洋服づくりが大好きな、みどり。夢のために一度は上京するも地元に舞い戻り、周囲の同調圧力の中でもがくみどりの、「私は人とは違う私でいたいんだ!」という、ヒリヒリするような自意識の描き方が見事な作品でした。
みどりが働くデパート「エース」の再生物語も読み応えが。表題の「オリオフリネラ=ギアナ高地だけに棲息する、飛べないカエル」に象徴されるような、「井の中の蛙のごとく、地元にとどまり、自己実現がなかなかはかれない面々」は、それぞれに読み手の心を惹きつけるエピソードで彩られていると、高い評価が寄せられました。
ただ、「良質の短編を集めた一冊」という印象が最後まで拭えず……。一編の物語を一人の視点でしっかりと描き通していないことが残念でした。
『路上生活ビギナーズ』甲田智之
ハローワークに仕事を探しにきた人たちが、あるきっかけから「大阪での路上生活修行」に放り出されるところから始まるこの物語。
芸人、ミュージシャン、女優。キャラクター一人ひとりの描写力に長け、何かを目指し、でも何者にもなりきれない人たちの心の葛藤がよく描けていたこと。奇想天外な着想や技巧に溺れず、教訓めいたことを堅苦しい言葉抜きでさらりと書いてのける安定した筆運びにも評価が集まりました。また、「お金がすべて」VS「家族の笑顔が幸せのすべて」といった幸福の価値観の対立構造にも、ある種のメッセージを受け取ることができました。
ただ、それぞれの登場人物たちが、どうしても路上生活を試みなければならない大義を、最後まで読み取ることができず……。登場人物が多すぎるところもあり、感情移入がしづらいところも残念でした。
以上。
次回の募集でも、意欲的な作品を心待ちにしています。