第6回受賞作品

『しねるくすり』

平沼正樹

受賞者

平沼正樹

平沼正樹

HIRANUMA MASASHIGE

1974年生まれ。神奈川県小田原市出身。帝京大学文学部心理学科卒業後、アニメーション製作会社スタジオ4℃へ入社。2005年にウェルツアニメーションスタジオを設立し、日本初となる3Dアニメーション「アルトとふしぎな海の森」を監督。その後、オーディオドラマレーベルを発足し「キリノセカイ」(角川文庫より小説化)、「さくらノイズ」「盗聴探偵物語」「マネーロード」など数々の作品をプロデュース。現在は会社経営、番組プロデュース、そして小説の執筆に専念している。
ブログ https://ameblo.jp/hirashige/

著者コメント

 この度は私の作品を大賞に選んで下さいまして誠にありがとうございます。この作品は私が書いた2作目の小説となります。最初の作品が第5回「暮らしの小説大賞」で一次選考を通過したことが大きな自信となり、本作を書き上げることができました。故に「暮らしの小説大賞」は私の人生において特別な存在となりました。産業編集センターの皆様、そして選考に関わって下さいました皆様には、心よりお礼申し上げます。
 しかし一方で、ようやく私にもバトンが回ってきたという一縷の安堵と大きな責任を感じております。それは生命を形成する遺伝子のバトンではなく、私たちの暮らしのすぐそばにある尊い文化を継承するミームのバトンです。作家と呼ばれるようになりたいという夢と希望に満ち溢れた20代、しかし思い通りにならずもがき苦しんだ30代、そして夢は夢と諦めかけていた40代に遂にそれを手にすることができました。この気高きバトンを次の世代に託すその日まで、しっかりと握りしめて走りきる所存です。

 これまで私のような人間を見守って下さった全ての皆様に感謝を込めて。

作品概要

 十年もの鬱屈とした浪人期間を経て薬科大に入学した数納薫(すのう かおる)と、それより二年長い浪人期間をまるで青春を謳歌するかのように過ごした芹澤ノエル(せりざわ のえる)。田舎の内科開業医の息子と大病院理事長の孫とではそのライフスタイルや考え方はまるで違っていたが、二人は互いに心許せる関係を築いていた。
 そんなある日、薫は芹澤にどうしても口説きたい女性がいるので部屋を貸して欲しいとせがまれる。しかしその相手は薫が密かに想いをよせていた同じクラスの成瀬由乃(なるせ よしの)だった。薫は複雑な感情を抱きながらも彼らとの生活を受け入れるのだが、そんな日々は強制的に終わる。芹澤が自殺したのだ。
 友人の死に方を受け入れられない薫、そして徐々に心のバランスを崩していく由乃。二人は芹澤のいない世界で息を潜めるようにひっそりと暮らすことしかできなかった。やがて薫は芹澤が残したある薬の存在を知る。それは、たった一錠で痛みも苦しみもなく確実に死ぬことができるという薬だった。その薬は学外へと波及し、薫や由乃の精神まで蝕んでいくことになり――。

総評

 第6回暮らしの小説大賞応募総数は714作でした。
 前回に続いての700作を超えるご応募に心から感謝申し上げます。一生懸命読ませていただきました。

 非常にハイレベルな応募作の中、今回の大賞受賞作は平沼正樹氏「しねるくすり」となりました。薬科大学を舞台にしたミステリー風青春小説です。
 物語は、主人公の親友が服毒自殺するというショッキングな出来事が鍵となり、展開されていきます。「毒」の周囲に何重にも張り巡らされた仕掛けと、設定の緻密さが、読み手を翻弄し、時に唸らせます。
 そして状況が二転三転していく中、主人公がこだわり続ける「親友の死を理解したい」という強い想いに胸を打たれます。

 エンターテインメント性とヒューマニティを備えた本作には、書き手が持つ可能性の大きさを感じられます。作品は大幅に改稿して、みなさんのお手元にお届けすることになるかと思います。一筋縄ではいかない平沼正樹氏の受賞作を、どうぞ楽しみにお待ちください。

贈呈式の様子

写真

受賞作品

暮らしの小説大賞 第6回受賞作品

しねるくすり

『しねるくすり』

平沼正樹

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