第7回受賞作品
『世界から守ってくれる世界』
塚本はつ歌
HATSUKA TSUKAMOTO
1983年生まれ。岐阜県瑞浪市出身。
大阪芸術大学卒業後、職歴を重ねながら小説投稿を続ける。
現在は神奈川県在住。子育てをしながら執筆を行う。
好きなことは散歩と読書、料理の本を眺めながら寝ること(実際に作るかどうかはまた別の話)。
母の手料理を捨てる父。父の嫌いなスイカを食べる母。不仲の両親の間で、二つに裂かれるような痛みを味わっている薫子。
性的違和をある日突然学校でカムアウトし、姉のお下がりのセーラー服で登校し始めるクラスメイトの中鉢。
誰かに認められたい。でも自分は自分。
それぞれが抱える戸惑いに互いにシンパシーを覚え、心友となった2人が見つけた「アジール」とは……。
第7回目を迎えた暮らしの小説大賞。今回の応募総数は708作品でした。
無軌道な若者たちの生活を描いた無頼派小説、心理戦が秀逸なサイコミステリー小説、焼けつくような痛みを伴う恋愛小説……。
今年もいろいろなジャンルの作品が届き、時に手に汗握りながら、時にホロっと涙しながら、一作品一作品、じっくりと読み進めさせていただきました。
ご応募、本当にありがとうございました。
さて、厳正なる選考の結果、今回の受賞作に決まったのは、塚本はつ歌さんの「世界から守ってくれる世界」です。
思春期の主人公たちが抱える家庭生活、学校生活での煩悶。
家族という枠組み、性という枠組みに縛られることへの違和感。
その心情を読者に伝えるためのワードセンス。まるで作中人物がすぐそこにいるかのような没入感を覚えさせる文体。
これこそが今回の受賞作にふさわしい作品と、多くの支持を得ました。
暮らしの小説大賞 第7回受賞作品
『世界から守ってくれる世界』
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著者コメント
この度は、大賞に選んでいただきありがとうございます。
5歳で初めて物語を書き、14歳で小説家になろうと決めました。そこから20年以上も投稿生活をすることになろうとは。挫けず続けてこられたのは周りの方々のおかげです。
私が何度やさぐれようとも一切動じなかった夫。「そんなこと言ったってまた書くんでしょ」と少し呆れたように、優しく見守ってくれた友人たち。ありがとうございました。
小説は、心のどろどろと固まらない箇所にかたちを与えてくれるものです。
同時に、時間を色鮮やかに満たしてくれるもの……豊かな暇つぶしでもあります。
勤め人時代、心まで押しつぶされそうな満員電車から守ってくれたのは小説でした。病院の長い待ち時間からも、余計なことを考えがちなお風呂の時間からも、小説が救ってくれました。まさに、暮らしに寄り添うものです。
「暮らしの小説大賞」という素敵な名前の文学賞をいただけて、本当に嬉しく思います。
私の作品を受け取ってくださった産業編集センターの皆様に、心からお礼を申し上げます。
今後も「豊かな暇つぶし」を作り出していけるよう、精進してまいります。